去年から今年にかけて、戦略法務という言葉(及びそれに類する表現)をいくつかの場所で目にしてきました。また、それに対するリアクションについても、「賞賛する声や将来のあるべき姿を模索する声」を聞く一方で、「バズワードとして非難する声や法務の本来の役割を問い直す声」も聞きました。
私自身コンサルタントとして事業戦略を、また弁護士として法務をやっているので興味を持ってこれらの議論を追いかけていたのですが、この辺どの様に整理するのが良いのかな…とずっと考えていたのでちょっと言葉にしてみます。
1.前提
「戦略法務」という言葉自体、文脈に依存する形で多様に使われている印象があります。ここでは一旦、
「ビジネス・戦略」と「法律・法務」を、何かしら一緒に考えるべき という主張
として広めに捉えてみます。
2.分類
「戦略法務」の話は結構色々な所で聞きました。ザーッとあげてみると、
- 自民党
- 経産省
- 弁護士
- 事業会社の渉外部門
- ロビイング会社
- コンサルティングファーム
- その他個人(ツイッター、ブログ)
辺りかなと思います。結構多いですね。
そこで、ここでは私が見聞きした「戦略法務」に関する内容を、ある程度のまとまりで分類してみようと思います。個々の論者を掘り下げると、恐らく多様なお考えが出てくるのかなとは思いますが、ある程度意味のある単位でまとめてみたのが以下です。
- 経営戦略論的な立場
- 法務機能論的な立場
- 法務役割論的な立場
3.検討
(1)経営戦略論的な立場
・概要
コテコテのフレームワーク論で言えばPEST分析のP、すなわち戦略立案時にPolitics(政治・法律)の視点をより重視しましょうという立場、として整理しています。 戦略を立案・実行する際に、立法的措置が行われるように働きかけて優位性を確保(維持)するわけです。
・具体的な現れ方
例えばA社が自動運転車を試作していて、今後大々的にビジネスとして展開しようとしている状況を想像してください。
ここで、A社の試作している自動運転車がXと言う特徴に強みを持つ場合に、A社が戦略的に「今後開発される自動運転車には、安全のため必ずXと言う特徴を盛り込むこと」という法律ないしガイドラインを制定させるように行動することが考えられます。主語(=自動運転車)の部分は、人工知能でもマイクロチップ埋め込みでもサイバーセキュリティでも置換可能です。
・私が感じる面白み
「社内の共感」と「社会の共感」のバランスを取ることだと思います。
確かに上の例でいくと何だかあこぎな感じがしますが、そうとも限りません。場合を分けて考えます。まず特徴Xがかなり確立された機能の場合、ビジネスとして実現できる可能性が高く「社内の共感」は呼びやすい。しかしながら、特徴XがあまりにA社固有のものであると「安全安全言って、お前それ自己利益のためじゃないのか」と社会からバッシングを受けやすい(=「社会の共感」を得られない)と思います。
他方、特徴Xがまだそこまで確立された機能でない場合、初期段階から繰り返し「社会のあるべき姿として特徴Xが必要なんです」と言っていれば、それなりに社会に受け入れてもらいやすいし、ビジョンを描くリーダーとして認識されることもあり得ると思います。社会アジェンダと言われる様なものにリンクできればなおのこと共感をうみやすい。しかしながら、実現可能性が高くない段階で社内を説得する必要があることから(=「それ金になんの?」)、経営陣の理解を得るために粘り強い啓発活動が必要になると思います。
(2)法務機能論的な立場
・概要
法務の果たすべき機能を、「立法段階」「紛争前段階」「紛争段階」に分けて、それぞれ「戦略法務」「予防法務」「臨床法務」等と呼び、プロセスのより前段階にも関与していくべきではないかという立場、として整理しています。
・具体的な現れ方
従来的な法務機能部門とは別に、渉外、公共政策といった部門や機能を持つ場合です。最近は日本でも多くの会社で見る様になってきましたよね。
大きい視点で見れば(1)とは結構似ているかなとは思うのですが、特定のビジネスとの結びつきの強さを起点として、主管部門(事業部・経企/法務)、積極性(攻めのロビイング/守りのロビイング)の違いなんかに繋がっていく気はします。
・私が感じる面白み
ここではビジネスとの繋がりというよりも、ロビイング・コミュニケーションのテクニック自体が結構面白い部分かなと感じています。広報機能なんかとも一定程度リンクする部分かと思います。この点については、以前マカイラ社の工藤さんからロビイング技術についてのお話を聞いたことがあるのですが、非常に興味深かったです。
(3)法務役割論的な立場
・概要
法務の果たすべき役割をリスクマネジメントとして捉え、ビジネスを「適切に」「促進」できるような役割を果たそうという立場、として整理しています。
お互いに
- 「なんとかするのが法務(弁護士)だろ」みたいな無茶振り
- 「我々は最後の砦(盾)として…」みたいな手段の目的化・自己陶酔
はやめて、ビジネスという共通の土台の上で有意義な議論をしましょうということだと思います。ただ、ここは一番反論・批判が大きい部分なのかなと認識していて、「ブレーキこそが法務の機能だ。法務がアクセルを踏んだら誰がブレーキを踏むんだ」という指摘も多く聞いた記憶があります。
・具体的な現れ方
直近だと、GDPRの時に「どこから、いつまでに、何を対応するのか」について、法務部門と事業部門・IT部門で一緒に検討をした方も多いのではないでしょうか。この時も議論が深まったかどうかは、ビジネスを共通言語として両部門が相手をプロとして信頼しながら議論できたかにかかっていたかな…と感じています。
・私が感じる面白み
フロント部門と有意義な会話ができること、サイロ化を回避しお互いをプロとして理解・信頼できることが面白みかなと思います。テクノロジー領域でいう近年のDevOpsなんかも同じ問題意識ですよね。
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私自身、「コンサル時代の同期が起業していて、そこから相談を受ける」というケースが結構あり、もうビジネスプラン的に真っ黒で話にならないということもあります。なのでブレーキの重要性を否定するつもりは全然ないのですが、それでも「何故私が相談に乗っているかというと、相手のビジネスを回すためだ」という意識は強く持っていたいと思うんですよね。
以上、生煮えの状態でオープンにして袋叩きにあったらどうしようという気持ちもありつつ、思い切って出してみます。ご指摘いただいて考えが深まればいいなと思います。