プロダクトカウンセルって何だろう?

【この記事は法務系 Advent Calendar 2020における4日目のエントリーです】

dtkさんからバトンをいただき、「プロダクトカウンセル」をテーマに記事を書いてみようと思います。以下のような方々に、以下のような効果があれば嬉しいなと思って書いてみます。

  • 法務中心に管理部門の方が、仕事への取組み方について振り返るきっかけになる
  • 企業法務系の弁護士の方が、クライアントとの関係について振り返るきっかけになる

なお、「肩書・カテゴリなんてどうでもよくて、要は何をするかだろう」と言う心の声はありつつも、「そのような肩書き・カテゴリが出てくる背景には何らか理由があるのだろう」と言う好奇心から書いています。

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1.テーマ設定の背景

(1) アドベントカレンダーの醍醐味

アドベントカレンダーは色々な人の記事が毎日読めて面白いですよね。

同種のテーマが数日続いた結果、Twitterに多くの感想が投げ込まれ日を追うごとに特定の話題が熱を帯びていったり(明日から続く経営アニメ法友会も楽しみです)、挑戦的な記事の存在が後日に控えていた方々に影響を与えたり(去年の「正解を追う」(kataxさん)や一昨年の「独立の決断・意義」(伊藤先生)なんか印象的です)。

この様にアドベントカレンダーの醍醐味は、本来個々人の作品であるはずのブログ記事が、アドベントカレンダーとしてまとめられた結果相互に影響しあう一体感・ライブ感にあるのではないかと考えています。私も毎年楽しみにしています。

そんな素晴らしい記事が多くある中で、私にはずっと心に残っている記事があります。それはhibiさんのプロダクトカウンセルについての記事です。面白いなと思いつつも当時私が非法律職だったこともあり当事者性を持って読むことができず、理解したいのだけれども十分理解し切れない…と言う意味でとても心に残っていたのです。

幸い今年のアドベントカレンダーは「インハウス弁護士 兼 事務所所属の弁護士」として迎えることができました。年を複数跨いでしまいましたが、このhibiさんの記事を出発点に色々と調べたことや考えたことを記事にしていきたいと思います。

(2)インハウス視点での情報発信

上記に加え、インハウスでプライバシー領域を専門に担当している立場から、可能な範囲で積極的に情報発信をしていきたいとの思いがあります。

勿論最終的な結論として「インハウス」や「プライバシー」を面白いと思うかはどちらもあって良いと思うのですが、当事者がどう感じているかという情報は(とりわけロースクール生や弁護士になりたての方達には)もっと積極的に届けたいなと思うわけです。*1

2.本編

前置きが長くなりました、ここから本編です。

(1) 私のLINE株式会社でのお仕事

LINE株式会社には法務室と情報セキュリティ室があり、それぞれに弁護士が在籍しています。法務室にはコーポレート担当とプロダクト担当がおり、情報セキュリティ室にも社内セキュリティ担当と(いわば)プロダクトセキュリティ担当がいます。*2

私はPrivacy Counselと言う肩書きで情報セキュリティ室に所属しており、プロダクトセキュリティ担当を主要業務の1つにしています。LINE株式会社の各プロダクトに対しては、法務室のプロダクト担当と情報セキュリティ室のプロダクト担当が協力しながら仕事をすることが多いです。

(2) プロダクトカウンセルとは

国内・海外いろいろな記事を読んだのですが、多くの記事で(恐らく)参考にされており、非常にためになったのはeBayでプロダクトカウンセルをやっている方の記事でした。そこでは、

Product lawyers work with clients to create compelling risk-managed user experiences.

出典:Product Counsel: How to be THAT kind of lawyer

とされ、以下がプロダクトカウンセルの活動領域であるとされています。

  • commercial contracting – helping to create clear agreements with our customers for their use of our websites, apps, or other technology.
  • regulatory – assuring that our products align with the words and spirit of regulations.
  • consumer protection – making sure our customers are informed and treated fairly.
  • marketing – promoting our products in a clear and compelling way.
  • intellectual property – respecting and protecting rights to great ideas.
  • privacy – promoting trust in our products through transparent, consistent, and reliable use of a customer's personal information.
  • good old-fashioned common sense – what my dad taught me!

出典:Product Counsel: How to be THAT kind of lawyer

実際に自分が「プロダクトセキュリティ担当」として行っている仕事に照らしてみても、かなり納得感があります。法務という法律の専門家が別にいることから、我々情報セキュリティ室の弁護士はconsumer protectionprivacy を重点的に担う傾向は多少ありますが、intellectual property以外はどれも関与します。

また、実際にいくつかProduct Counselの求人情報を見てみると、近時はプライバシーに対する要求がかなり大きな割合を占めるようになってきていると感じます。*3

(3) 考察

以下では、プロダクトカウンセルに関して議論されているトピックについて考察するとともに、私自身難しさを感じている点や、自分なりに工夫している点を共有したいと思います。「もっと良いやり方/考え方があるよ」とのアドバイス大歓迎です。

・求められる特徴

プロダクトカウンセルだから何かの能力が優れていたり、あるいは劣っていたりということは無いように思います。プロダクトカウンセルに求められる特徴は、恐らく能力ではなく思考様式なのだと思います。それはプロダクト起点・ユーザー起点での、リスクベースでの思考様式です。

自分の仕事を振り返ってみても、「法律・判例がどうなっているか」から議論を開始した記憶はあまりなく、まさに「ビジネス上の狙いは何か、プロダクトとしてどうか、その機能を実装したときにユーザーはどう感じるか」から議論を始め、結果として法律・判例との整合を図る印象が強いです。

心構え的な話は共感しにくいかもしれないので、限界的な具体例で説明します。例えば、企業があるプロダクトについてインシデントを起こした場合、しかも外形的にはインシデントの存在がわからないようなケースです。このようなケースであなたに相談が来たと想像して下さい。「法律やガイドライン上はこうなっていますね。(中略)努力義務ですし/法律上求められてはいませんし、後は事業判断かと思います」は法律の専門家として正しい意見だと思いますが、consumer protectionとしては果たしてどうでしょうか。やはりもう一歩踏み込む必要がある気がします。平場では「やはりもう一歩踏み込む必要が…」なんて気軽に書きますが、実際に火事場で自ら火に飛び込んでいくのはなかなか気力と体力が要る行為です。

法律やガイドライン上の通知・報告義務はもちろん把握した上で、プロダクト起点・ユーザー起点で通知の要否を判断できるかどうか。正しく事態を捉え、中途半端に自己(自社)弁護的なコメントを混えず正確なアナウンスができるかどうか。一歩進めてユーザー一般に対しても何らかアナウンスが必要ではないかと検討ができるかどうか。通常多くの人がインシデントの通知・報告にそこまで積極的ではないと考えられる中で、どうあるべきかを考え行動できるかどうか。うやむやにしようとする人が仮に現れた場合、毅然とした態度で立ち向かえるかどうか。対応が必要だと考える人たちと協力して、最後まで正しく振る舞えるか。

このような場面では、いつも自分が試されていると感じます。自戒しかありません。

・必要なツール

プロジェクトマネージャー(PjM)とプロダクトマネージャー(PdM)が比較される文脈で、両者の違いによく「期限の有無」が挙げられます。PjMは仕事の対象がプロジェクトであることから導かれる当然の帰結として仕事に有期性がありますが、PdMは(そのプロダクトが終わらない限り)仕事に有期性がありません。

プロダクトカウンセルも同じで、プロダクトライフサイクルに合わせて継続的に相談がくるとともに、「新規の相談」は「過去の相談や判断」と有機的な繋がりを持ちながら積み重なっていきます。この結合度合いは、カンパニーレベルでの相談よりもプロダクトレベルでの相談の方が密接であると感じます。

そこで、当該プロダクトについての情報を集約して管理できる一覧性のあるツールがあるととても役に立ちます。例えばプライバシーの分野ではPrivacy by Designと言われ、プロダクトライフサイクルに合わせてプライバシーの観点を織り込んでいくための手法の一つとしてPrivacy Impact Asessment(PIA)と言うものがあります。こちら、過去にテンプレートと合わせて記事を書いていますので後ほどぜひご覧下さい。*4

・プロダクト理解を深める方法

次に、プロダクトの理解を深める方法について考えてみます。

自領域に止まっていてもプロダクトの理解が進むわけではありません。プロダクトに関する情報があるのは、「まさにそのプロダクトが話し合われている現場としての事業部」と「プロダクトが価値を発揮する場面としてのユーザー接点」です。このことから私は、

  • 可能な範囲で事業側のミーティングに参加させてもらう(可能なら発言もする)
  • 可能な範囲で自分もそのプロダクト/競合のプロダクトを利用する
  • 得た情報は上述のPIAレポートに集約し、相談対応時には事業側と一緒に参照する

ことを心がけています。この辺りは冒頭のeBayの方の記事でも"Eat the dogfood"としてドッグフーディング*5の重要性に言及されている所です。これらを繰り返しているうちに自分の脳内における「PdM」への理解や「仮想ユーザー」のイメージが具体性を増し、「きっとあの人/このユーザーならこう考えるんじゃないか」といった発想から、気付くことができるポイントが増えていく感覚があります。

また副次的な効果として、PIAレポートを事業側と一緒に参照することを通じてこちらの問題意識や思考過程を公開することで、(言葉として適切かはともかく分かりやすさを優先して言うと)事業側のリテラシーを高めてもらうことにも繋がっている気がします。

・習熟度が現れる場所

プロダクトカウンセルとしての習熟度はどの辺りに現れるのでしょうか?

Product lawyers work with clients to create compelling risk-managed user experiences.

出典:Product Counsel: How to be THAT kind of lawyer 

ここにある通り、私はプロダクトカウンセルとしての習熟度は"compelling risk-managed user experiences"をどれだけ達成できるかに現れると考えています。より具体的に言えば、リスク特定段階におけるリスクシナリオの説得力や、リスク対応段階における実装方法の提案の説得力に現れると考えます。

私はリスクアセスメントにはそこまで網羅性は必要ないと考えています。網羅性を追求しようとするとどうしても「作業」感が出てきて、リスクアセスメントが数字遊びになってしまいます。より本質的なリスクシナリオについて関係者で明確にイメージを共有し、そのシナリオにユーザーや自社が行き着かない方法を提案することを大切にしています。

ここでも具体例を一つ出してみます。
例えば、事業側から「ユーザー間でのブロック機能を設けたい」と相談された場合。そもそもブロック機能を設けることについて、相談してもらえる関係にあるかが第一のチェックポイントだと思います。*6「”ブロック機能を設ける時にはこうしろ”みたいな法律なんかある訳ないんだから聞いてくんなよ」と思うか、「なんとなく臭そうと思って相談してくれたんだろうな、嬉しいな」と思うかは”求められる特徴”で述べた思考様式によって変わると思います。*7

その上で、Twitterで比較的よく見るやりとり(e.g.ちき◯んにブロックされた)を踏まえると、どうやらブロックされた側のユーザーはスクショを撮って仲間内に共有したくなるくらい、激しく自尊心を傷つけられているように見えます。そうだとすると、ブロック機能の実装に際しては「ブロック機能の存在」や「場合によってはそれが自分に行使されうるものであること」への理解をユーザーに促した上で、「ユーザーがブロックされた時に、それを上手く受け入れてもらうためのクッション」があると良さそうです。

上記具体例がどの程度説得的かは置いていただくとして、「事業側が捉えた小さな違和感」を都度相談してもらえる関係性を築きつつ、それに対して違和感の解像度を適切に上げられるようなリスクシナリオの説明能力が重要なのかなと思います。その上で、実装の提案能力まであればなお良いですが、まずは取り得るリスク対応について事業側にストレスを感じさせず一緒に議論できるだけの理解と関係性が重要だと思います。

・外部弁護士はプロダクトカウンセルたり得るか

私はたり得ると考えます。

冒頭に述べた通り、プロダクトカウンセル”らしさ”の本質が思考様式にあるのであれば、所属の内外はプロダクトカウンセルであるか否かには影響しません。インハウスの方がプロダクトに対して当事者意識を持ちやすく、プロダクト起点・ユーザー起点での思考がしやすいのは事実だと思いますが、企業内部に所属していることが必須ではないでしょう。

例えば高橋治先生は、インハウスから法律事務所に転身するに際しての心境を以下のように語っています。

今回の転身は、このプロダクトカウンセルないし、リーガルサイドエンジニアとしての支援の対象を、外の起業家やプロダクトにも広げてみたい、そのためにプライベートプラクティスに身を置き経験を積みたいと思ったのがきっかけです。

(中略)

外部にいたとしても、インハウスに近いリーガルサービスの提供もできるのではないか、というのが現時点の仮説です。インハウスローヤーから転身したばかりの私がそういうことを言うと、「知りもしないくせに」とまた批判されるかもしれませんが。

 

つまるところ、自分が関わっているプロダクトやサービスの哲学を深く知って好きになれるなら、あとは業務上の関わり方の違いだけではないでしょうか。どちらが偉いとか、優れているということはないはずです。

出典:私のサイン シティライツ法律事務所 弁護士 高橋治

私自身LINE株式会社に勤務しながら、インハウスハブ東京法律事務所に所属している弁護士としてセキュリティ/プライバシー領域に絞ったサービスを提供しています。(この辺からは宣伝くさくならないように注意したいですが)継続的にご一緒させていただいているお客様からは、継続いただける理由として

  • ビジネスの理解が早い
  • 提案が具体的で現実的

といった評価をいただけているので、プロダクトカウンセル的な側面が外部弁護士としての強みになるケースもあるのかな…と感じています。引き続き努力していきたいと思います。*8

・冒頭の…

最後にここまでの検討を踏まえ、冒頭の好奇心に対して自分なりの答えを出してみます。プロダクトカウンセルという肩書き・カテゴリが出てくる背景についてです。

なお、「肩書・カテゴリなんてどうでもよくて、要は何をするかだろう」と言う心の声はありつつも、「そのような肩書き・カテゴリが出てくる背景には何らか理由があるのだろう」と言う好奇心から書いています。

これは、いわゆる法の遅れに対応するためではないか…というのが自分の考えです。

法がルールとして機能しにくい状況があったとしても、企業はどこかからそのような状況において適用すべきルールを引き出してこなければなりません。ではどこから引き出してくるか。それはもう「企業」と「ユーザー」との接点である「プロダクト」以外ないのでしょう。

では、どうすればプロダクトからルールを引き出すことができるのか。ルールの専門家である法務が、プロダクトの専門家でもあろうと努力する過程の中で引き出していくしかない。私はそう考えています。

3.まとめ

以上です、長くなってしまいましたが最後までお読みいただきありがとうございました。後に控えておられるアドベントカレンダーも楽しんでいきましょう。

明日はahowotaさんの「経営アニメ法友会設立宣言」です。

4.Special Thanks

  • 素敵な記事を書いてくれ、個別インタビューにも応じてくれたhibiさん
  • hibiさんとの間を繋いでいただき、いつも良い刺激をくれるはっしーさん

5.参考文献

*1:リファラル採用やっております。求人見て興味が湧いたと言う方、ぜひお話だけでもどうですか?メール/Twitterでご連絡いただければ嬉しいです。

*2:正式名称は微妙に異なっていたり、他にも担当の種類があったりしますが、今回の主要論点ではないのでご容赦下さい。

*3:CIPP (Certified Information Privacy Professional) certificationと言うプライバシー系資格を要求するケースも目立ちます(例えばamazon)。なお、過去にはCIPPの資格取得攻略記事も書いているので宜しければご覧ください。

*4:ちょうど先週、Airbnbの渡部友一郎先生のISO31022に関する講演も聞いてきました。法務でもリスクマネジメントプロセスにしっかり乗ってやろうよと言うのは良いことだと思いますね。PIAもISO29134でリスクマネジメントの手順が定義されていて、私のテンプレートでも配慮しています。

*5:ドックフーディングとは

*6:正直なところ私も担当しているプロダクトによって、事業側との関係性には濃淡があります。関係性が強いプロダクトは細かい所まで気軽に相談してもらえるし、全体感を持って対応できている感覚があります。逆もまた然りです。

*7:上記の例ではconsumer protectionやgood old-fashioned common senseにあたるでしょうか。

*8:この辺り、@Sakai_Takanori先生からは非常に厳しい言葉が続いています。認識している事実としては私も先生に比較的近い気がしますが、外部弁護士のプロダクトカウンセル的な取組みは肯定的に捉えたいです。今後成功事例を重ね、Tipsみたいにまとめられればなと思います。