インハウスと中間択

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【この記事は法務系 Advent Calendar 2021における3日目のエントリーです】

今年もdtkさんからバトンをいただきました、宜しくお願いします。
(ITでは医療系を除くとあまり無いですが、確かに人命が関わってくるとプレッシャーが段違いですよね…)

1.自己紹介

アドベントカレンダーなので普段あまり交流のない方にも読んでいただけるのではないかとの期待の下、最初に軽く自己紹介をさせてください。

インターネットサービス企業で、Privacy Counselというポジションでインハウスの弁護士をやっています。また副業・兼業として、インハウスハブ東京法律事務所で弁護士の仕事もしています。会社でも事務所でも、世間的に情報法と言われるような領域だけをやっています。

稼働時間的には会社:事務所=7:3くらいで、事務所の仕事は平日の早朝深夜や土日を中心的に充てています。

2.テーマとゴール

(1)取り上げるテーマ

今の「インハウスと事務所の兼業」という就業形態が始まって、そろそろ3年目に突入しようとしています。その中で見えてきたことや感じたことについてまとめてみます。

なお、事務所とインハウスの話はTwitterでも定期的に議論が繰り返されているネタですが、対立を煽るような話はしたくありません。興味があるなら両方やってみて、適性があると感じた方に寄せていったら良いんじゃないかなと思っています。あとは主語の大きさに注意という感じでしょうか。

@shibaken_law先生, @law_strawberry先生, @tk70270102先生の以下のツイートには共感していて、私もこのようなスタンスで書いていければなと思っています。

(2)この記事のゴール

・弁護士の方

若手の先生方に、インハウスという選択肢もあるよというポジティブな提案ができれば良いなと思っています。また現在インハウスの先生方には、記事の後半で述べる副業・兼業に興味を思ってもらえれば嬉しいです。

加えて、法律事務所から短期で事業会社に出向いておられる先生方。余計なお世話かもしれませんが、仕事があまり面白く無いと感じておられることが多いのではないかな…と想像します。私は法律事務所の延長でインハウスの業務を考えるのは良い方法ではないと考えているので、この記事が何かのきっかけになれば嬉しいです。

・法務部員の方

インハウスの弁護士が考えていることの一事例として楽しんでいただければと思います。また事業部門との向き合い方なんかは、ご意見・ご感想等々いただけると嬉しいです。

3.本編

以下の3点から書いてみます。

  • 仕事
  • 時間
  • お金

(1)仕事

・インハウスのとき

インハウスとして仕事をしているときは、対面するのが事業部門になります。そのため、事業部門を通して(彼/彼女らがみている)プロダクトやユーザーをみて仕事をしている感覚が強くあります。

議論の土俵は法律ではなく事業であり、相手も法律の専門家ではなないため、議論を進める上ではある種の教育・啓蒙的な動きが継続的に必要です。一方で、当然こちらも継続的に事業理解を深めていく必要があります。*1

・事務所のとき

事務所で弁護士として仕事をしているときは、対面するのが法務部門(あるいは法務がハブになった混成チーム)の場合が多いです。「専門家」としてサービスの提供を求められている感覚がありますし、

  • 相手の法務部員も法律の専門家である
  • 相手には自分以外の弁護士に相談するという選択肢がある

という事実がこの感覚を一層強調します。

その中で必死に準備し・感謝をされ・次の仕事をいただけるというサイクルから来る満足感は、インハウスとして活動する中ではなかなか得にくい感覚です(私はインハウスの仕事は好きですが、「次の仕事をいただける」という境地にはまだまだ至れておりません)。

事務所での仕事においてもクライアントの事業理解が必要なのは間違い無いのですが、法務部門相手に事業理解が決定的な要因となることはインハウスの場合と比べて多くはない気がしています。どちらかというとそれはクライアントリレーションというか、「この弁護士は自社をよく理解してくれいている」という評価からくる納得感に利いているのかもしれないなと思っています。

・私のインハウスの楽しみ方

私の場合、インハウスとして活動していて一番面白いと感じるのは、やはり自ら当事者として事業に関与できることです。そのため、「法律の専門家」といった事業の中心から一線を引いたスタンスではなく、事業担当者の一人くらいのつもりで初期段階から関与することにしています。

「相談が来ればそれに答える」ということと「自らの職責として、対象サービスのリスクに主体的に対処する」ことには結構な差があります。後者の場合「事業部門が相談に来ない」「法務部門は敷居が高いと思われている」みたいな言い訳ができませんが、責任と同時にやりがいは大きく向上しました。

よくある「法的にNGな場合の代替案」についても、当事者として初期から関与している場合には自発的に検討したくなるもので、「そんなスキーム無理に決まってるだろ。当然のように代替案要求してくるなよ」というネガティブな感情からも脱することができました。

・楽しむためにしたこと

実体験を踏まえても、ここの一番の障害となっているのは事業部門との関係性構築なのかなと思います。法務部員も当然人間で、検討が進みに進んだ段階で「明日までに返事くれ」みたいな態度でひたすら言質をとりにくる事業部門とは関係性を構築することは難しく、Yes or Noで答えてしまいたい、一緒に妥協案なんて探れないと感じるものだと思います。

また、法務部門は事業部門を通してサービス/プロダクト/システムを見ている所がある(と私は思っている)ので、事業部門と関係性が構築できないと結局サービス/プロダクト/システムが見えない、更にはその奥にいるユーザーが見えない、よって代替案も検討しにくい…みたいな所もあるのかなと思っています。

 

…とここまで偉そうに書きましたが、私がインハウスの仕事を楽しむために具体的にやっていることは単純なものばかりで

  1. 事業側のslack等は追いかけておく
  2. 事業側の定例には可能な範囲で出る
  3. 質問が来たら最低限「確認します」だけでも即レスする
  4. 日を跨いでボールを持たない
  5. OKの場合もNGの場合も理由は簡潔に説明する
  6. 検討事項や合意事項は文字に落として一覧化し、双方がアクセスできるようにする

あたりを日々やっています。どれも、今まで出会った優秀な人達がふとしたタイミングで「こんなことを心掛けている」と私に教えてくれたことです。パクっているだけでは芸がないので、これらの行動にどういう意味がある(と私が感じている)かを説明します。

1,2をやっていると「法務に相談する」から「○○さんに相談する」という、バイネームで相談をもらっているようなコミュニケーションになります。私はこの顔が見える状態を作っておくことが全ての基礎になると思っています。

3,4をやっていると「企画の初期段階から相談する」ということに対して、事業部門側のハードルがかなり下がる印象があります。結果としてコミュニケーションの量が向上します。必然「それは他部署に聞いてくれ」という話が紛れ込むケースも増えますが、1,2をやっていればお互いに悪感情なく捌けると思います。

5,6をやっていると事業部門側の理解度が格段に上がります。「そんなスキーム絶対無理」というような企画が次第に減り、こちらのするであろう指摘に先回りして答えや代替案を用意してくれ、コミュニケーションの質が向上します。

・今後の課題

他方で、普段自分が担当している領域が良好な関係性の下で高いレベルのコミュニケーションをしてくれるようになると、飛び込み・サポート・ローテーションなどで入ってくる(前述の言質取りのような)相談に対して、今まで以上にイラついてしまうことに気付きました。

この辺はまだまだだ未熟だなと感じているところです。

(2)時間

Twitterでは「事務所に疲れたならインハウスにでもいけ」という話になり、殺伐としがちですよね。

ここは事務所についてもインハウスについても「組織による」というのが最終的な答えだとは思いますが、一般論としてはインハウスの方がワークライフバランスを取りやすい傾向はあると思います。面接でそのように説明するかはともかくとして、事務所の働き方に馴染めない方がインハウスに移って活躍されるのは歓迎すべきことのように思います。

とはいえ、事務所からインハウスに移る皆さんは、今までは自分が組織においてしっかり機能していることを確認し、周囲から感謝・評価されることで満足感を得てきた人が多いのではないかと思います。自分も含めてですが、このような人たちは結局のところインハウスでもそれなりにハードワークをしている印象が強いです。

(3)お金

ここは残念ながら、事務所と比べた時のインハウスのデメリットだとは思います。JILAがアンケート結果も公表してくれていますが、私のところに届く求人を見てもざっくり似たような感じです。

入社後は毎年数百万円単位で給料が上がることも(基本的には)ないので、その辺りは理解した上で。。。という感じはあります。

4.おまけ(副業・兼業という中間択)

その上で、「(2)時間」をもう少し犠牲にしてでも、「(1)仕事」におけるインハウスでは得にくい種類のやりがいや「(3)お金」を得たいのであれば、インハウスと事務所の副業・兼業も良い選択のように思います。*2

私の場合、インハウスという安定的な存在があるおかげで、事務所の案件は

  • 自分がやりたい領域の仕事だけを
  • 自分が共感できるクライントから
  • こちらがお願いした金額で

受けることができる点にとても魅力を感じています。兼業のためそこまで大量に数をこなすことはできませんが、そもそも上記条件を満たしてくれるクライアントは沢山はいません。*3

上記のような働き方は、優秀な中堅・ベテランの先生方であれば事務所一本でも実現できるのかもしれません。しかしインハウスと事務所の兼業は、若手〜中堅でもそれを実現し易い点が魅力だと思います。

弊所も最近公募を開始したのでぜひ覗いてみてください。

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以上です。
明日はおもて明さんです、今後の皆さんの記事楽しみにしております!

*1:先日ビジョナルの小田先生のインタビューが公開されていましたが、共感する部分が多く参考になりました。

*2:コンフリクトについては、こちらの足立さんの記事をどうぞ。

*3:北先生が呪文のように唱えている「適切な事件を、適切な弁護士に。」には共感します。「私は、私が受けるべき案件を受ければ良い」という心の余裕をインハウスの地位と北先生がくれました。