2023年上半期振返り

2023年ももう6月、あっという間に上半期が終わろうとしています。気温も30度を超えてきて、梅雨はどこに行ったんだという気がしますね…。

今年は上半期と下半期で、やりたいこと・やるべきことに割とはっきり差が出たました。そこで上半期に区切りがついたこの機会に、感じたことや悩んで出した結論をまとめておきたいと思います。ポエム回です。

主語が大きくなりがちだと思うので、一応今の自分のステータスというか前提を書いておきます。

  • 企業法務系
  • 中小規模事務所(2023年6月時点で7人)
  • 受任領域はかなり限定的
  • アソシエイトなし
  • IT・ソフトウェア企業、ITを活用したtoC小売業・toB製造業中心

 

1.弁護士の質

「弁護士の質」みたいな話って、弁護士側からある種のナルシズムと共に語られるケースが多い気がしています。

私も単純なので、本などでそのくだりを読むと「かっこいいな」「自分もそうなりたい!」と思ってしまうことが多いのですが、質を判断するのがクライアントである以上、本来はクライアント側から語られるべきものではないでしょうか。

それでもなお弁護側からこの点を考えてみるとき、それは質というより相性として捉える方が健全なのではないか…と最近は考えています。

 

  • Wordで書かれた隙のない意見書とメールでの丁寧なコミュニケーション

を喜ぶ企業もあれば、

  • 5分以内のslackスタンプ&半日程度で完結するスレッドでのディスカッション*1

に価値を見出してくれる企業もある。そして、このどちらかを強く好む企業は、もう一方しか対応できない弁護士をあまり評価してくれません。

これはあくまで一例ですが、自分たちが価値を発揮できる領域がどこなのかを考え、そこを重視してくれるクライアントとはどのような特徴をもった企業なのかを分析し、そこに当てに行くことが重要だと考えています。

 

2.クライアントのタイプ

日常的な法律相談ではあまり意識することがないのですが、新法 / 改正法対応の場合にはクライアントのタイプを意識して全体のスケジュールを設計する必要があるな…と最近学びました。

具体的には

  1. 前めに動くクライアント
  2. ど真ん中で動くクライアント
  3. 後めに動くクライアント

くらいに分類して考えるのが良さそうです。

(1)前めに動くクライアント

自ら積極的に情報を収集し、確定情報が出ていない段階から相談をくれ、いざという時には自走してくれる理解度の高いクライアントです。弁護士側としても、このようなクライアントと議論をする過程で、新法 / 改正法の解像度を上げていく側面が多分にあります。

このようなクライアントは絶対に逃してはいけないし、彼 / 彼女らにバイネームでご指名をいただけるように、普段から高いレベルでのアウトプットを維持しなければいけません。

また、既に関係性があり日常的な法律相談をくれているクライアントは、基本的にはこのカテゴリーに誘導できるように、普段からインプットや啓発に時間を充てておくことも大切だと感じます。

(2)ど真ん中で動くクライアント

情報が出揃った一番いい時期に動くクライアントです。

新法 / 改正法対応でこのようなクライアントを抱えすぎると、ピーク時に業務量が爆発します。よって、その時期の重点攻略クライアントなどに限定するのが良いのかもしれません(が、私はまだそのように賢くは立ち回れていません)。

 

業務量が爆発すると、

  • 自分自身の作業

は夜〜朝にかけて頑張ることで何とかなりますが、

  • 直接的なカウンターである法務部門へのフォロー

  • 間接的なカウンターである事業部門へのフォロー

をどうしても2-3割諦めることになります。こうなると、プロジェクトの成功をある程度運に任せなければならなくなります。

 

弁護士としての対応スコープは、当然プロジェクト開始時にクライアントと合意してスケジュール通りに完遂します。しかし、プロジェクトの成否はその対応スコープとは無関係に、プロジェクト全体から判断されてしまいます。

そのため一定割合で「弁護士としてはすべきことをしているのに、クライアントの法務部門は会社から評価されず、結果として弁護士も十分に評価されない」という状況に陥ります。

この時、法務部門はあまり明示的に指摘はしてくれませんが、多くの場合、弁護士に対して「やることはやってくれたけど、もうちょっと気を利かせてく動いてくれればよかったのに」「もうちょっと弊社の事情を踏まえて動いてくれたら良かったのに」等と不満を抱いている気がします。

ここで弁護士側が「クライアント(法務部門 / 事業部門)の質が低い」と嘆くのは全くもってお門違いで、運に任せてしまった自分の実力不足を責めるべきだと思います。

(3)後めに動くクライアント

新法 / 改正法のスケジュールから、多少遅れて動くクライアントです。

このカテゴリーに該当してしまうか否かは、社内事情も大いに関係してくるので制御不能な場合も多いです。前回は前めに動いてくれていたクライアントでも、いろいろな事情でこのカテゴリーに移ってきてしまうことがあります。

このカテゴリーを頑張って(2)に押し込めようとすると、パンパンになっている(2)をさらに圧迫することになり、全体としての仕事のクオリティー(ひいては複数クライアントの満足度)が下がるので避けるべきだと考えます。

我々がすべきは中盤〜終盤での徹夜作業ではなく、序盤での冷静で実現可能性のあるスケジュール設計ではないでしょうか。

 

3.仕事の定型 / 非定型

定型的な仕事を組織的に大量処理する事例が、事務所の金銭的な成功事例として紹介されることがあります。反対に、(自称)不定型な仕事を中心にこなしている弁護士が、定型的な仕事を中心に行う弁護士を見下す発言をする場面も見たことがあります。

結局全ての案件には個別性があるので、完全に定型処理が可能な案件はないと思いますし、「定型」と言われた側はそのように主張しがちです。しかしここで終わってしまうと、あまり議論が深まらない感じがします。

そこで…という訳ではないのですが、最近自分の中で考えているのは以下のような分類です。それぞれの仕事に10時間をかけられるとした場合、、、

(1)定型的な仕事

最低限の品質に達するまでに3時間かかるイメージの仕事です。

そこからの残り7時間は、カウンターの法務部員の理解を深めたり、その先の事業部門が使いやすくするために使うことができます。もっともそれは追加的な満足のためであって、場合によっては3時間の段階で提出することも許される仕事です。

(2)非定型的な仕事

最低限の品質に達するまでに7時間かかるイメージの仕事です。

10時間かけられるとしても7時間はしっかり時間をかけないと最低限の品質として受け取ってもらえません。7時間かかってしまう理由は、「テーマとしての未成熟性」や「個社ごとのアレンジ余地の広さ」「法務部門以外との調整の必要性」など様々な理由がありそうです。

(3)自分の好み

仕事としてはやはり非定型の仕事を面白いのと感じるケースが多いのですが、稼働調整の難しさもあり全体のうち一定の割合でしか受けることができません。

非定型の仕事を受けることで自分の能力の幅が広がるし、そこでの経験が定型的な仕事に良い影響(説得力、実現可能性、代替案など)を及ぼすことも多いです。受けたいと思う非定型的な仕事をきちんと受けられるよう、日頃から一定の余裕を持っておきたいなとは常々思っています。

 

4.お金のもらい方

「タイムチャージの是非」みたいな話は定期的に議論になります。私も当初は、タイムチャージ(変動額制)よりも、何らかのルールの下で定義した固定額制の方がクライアントに喜ばれるのではないかと考えていました。

しかし、固定額制はどこまで行っても結局「どちらかが得をし、どちらかが損をする」という話に構造上なってしまう気がします。この状況は、長期的な関係を維持する上ではマイナスなのではないかと考えるに至りました。*2

そうであるならば、変動額制を取った上で、お互いの納得感を高める努力をするのが正しい道なのではないかというのが現時点での結論です。

 

5.お金の示し方

ではタイムチャージを採用するとして、どのようにクライアントに示すと良いかを考えてみます。

この点について、私は今期2つの領域についてパッケージ的に見込み価格を事前に提示・公表することに挑戦しました。

これは思っていた以上に好評で、既存クライアント・新規クライアントはもとより同業の先生方からも多数お褒めの言葉をいただきました。

 

当初は値下げ競争になるのではないかとの懸念もあったのですが、ここはある種の開き直りができたことで結果としてクリアすることができました。

というのも、依頼を検討くださるクライアントのうち、金額に一定以上の優先度を置く会社を満足させるのは非常に難しいと気づいたからです。相見積もり自体は否定されるべきではないと考えますが、その過程でのコミュニケーションからも、金額の優先度はある程度透けて見えます。

満足させるのが非常に難しいクライアントを相手にするよりは、「先生には必要な額はきちんとお支払いしたい」と言ってくれるクライアントを大事にした方が幸せです。そこで「彼 / 彼女らが予算を取ってくれるのに際して必要かつ十分な情報を、見積もりとしてお出しすればそれで良い」と開き直ることにしました。

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以上です。

皆さんのお考えや、採用している工夫などお聞かせいただけると嬉しいです。

*1:「フットワーク軽く」とか「ビジネスパートナーとして」みたいな表現もよく見ますが、結局それは意気込みの話なの?セールストークなの?となってしまうので、具体的な行動レベルで教えてほしいなと(とりわけ、ご依頼をするインハウスの立場として)思うのです。

*2:フィクション、あるいはノンフィクションとして「顧問料を払うだけで相談が来ない顧問先」という設定が出ますが、私はそのような顧問先に出会ったことがないので想像及ばずです。