1.今日のテーマ
この土日は国外用のプライバシーポリシーを書く仕事を複数進めていたのですが、ちょっともう思考を発散させたくなりブログを書いてみます。テーマは「内部弁護士(インハウス)固有の価値は何なのか」で行きます。
※なお今日の記事は、IT系の事業法務を前提にしている部分が多々あると思います
ここを自分なりに言語化してみようかな。
— 世古修平 (@seko_law) October 15, 2023
社内政治とかそういう抽象的な話ではなく、もっと具体で理解した方がいいことあると思っています。
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事業や組織の動き方に対する解像度が段違いに上がっている。同じ弁護士業務でも、立ち位置もアドバイスの中身も大きく変わってきている。 https://t.co/HQyCpV5gxy
2.私のこと
①私は勤務先では、法務部門ではなくプライバシー部門所属の弁護士として活動しています。事業部門がプロダクトの開発をする際に伴走し、プライバシーの観点からリスクになりそうな部分について、
- リスクを特定・言語化し、事業部門と議論する
- 回避 / 軽減 / 受容すべきリスクを切り分け、事業部門と合意する
- 軽減すべきリスクと判断したものについて、軽減策をDONEまで追いかける
みたいなことをしています。
②また、当然のことながら勤務先には法務部門もあります。彼/彼女らはプライバシー部門と一緒に事業部門とのミーティングに入ることも多いです。
③そして、勤務先は社外の弁護士事務所の弁護士に相談をすることもあります。
④最後に、私は法律事務所LEACTで自身としても社外の弁護士としてクライアントから相談を受けています。
そんなわけで、私は
- ①インハウスの弁護士として、事業部門から相談に乗る
- ②「インハウスの弁護士として、事業部門から相談に乗る」人を見る
- ③「社外の弁護士として、法務部門/事業部門から相談に乗る」人を見る
- ④社外の弁護士として、法務部門/事業部門から相談に乗る
という4つのケースを見る機会がある弁護士なのですが、このそれぞれのケースを比較する中で感じたことを言語化したいというのが今日の目的です。
3.企業の犬
ちょうど今日三谷先生が以下のようなツイートをしていました。
修習生当時、渉外系の話をしたらある先生に「企業の犬」だなと言われたことを思い出します。昔はもう少し独立心旺盛な空気があり、法律を武器に大企業と伍していくんだという気概に溢れた人達が沢山いた気がします。志望者層の変化は、司法制度改革と時代の移り変わりの双方によるものなのでしょう。 https://t.co/Y67pqq7UTF
— Kakuji Mitani(三谷 革司)@SPARKLE LEGAL (@KMITANI) October 15, 2023
今でこそ「ある先生」と同じポジションで渉外系を批判する人は少ないと思いますが、当時はそちらが多数派だったのだろうと思いますし、三谷先生も悔しい思いをされたんじゃないかと想像します。
どうでしょう。
既視感があるな…と感じた方も多いと思うのですが、これって
- インハウスは二流
- インハウスは逃げ
みたいな発言とも似てますよね。*1
新しい取組みが現在力を持っている人から軽んじられるのは今回に限ったことではなさそうです。また、「ある先生」が当時立ち上がってきた渉外系で十分に実力を発揮できたかというとそれは分かりません。「場面が変われば求められる能力も変わる」というのも法律に限らないあるあるですよね。
そこで今日のテーマに戻します。「内部弁護士(インハウス)固有の価値は何なのか」について考えてみます。
4.結論:インハウス固有の価値は別にない
いきなり煽り気味ですいません。ちょっと順番に説明します。
(1)外部 / 内部の違い
今回は「法的なサービスを提供する上で”外部の弁護士”と”内部の弁護士(インハウス)”の一番の違いは、相談の相手が非法律職の人間かどうかである」と仮定して思考を進めてみます。*2
- 給料が保証されているか
- 自分の名前で仕事を取る必要があるか
- 直接部門としての役割か、間接部門としての役割か
なんかも面白そうですが、現状一番自分が感じている違いはこれでした。
冒頭の「組織の動き方」という部分にも通じるのですが、
外部の弁護士の場合、弁護士→法務部門→事業部門という流れになりますが、
内部の弁護士の場合、弁護士→事業部門と流れるわけですよね。
新たに弁護士事務所から企業に移籍してきてインハウスになられた先生を見ていると、外部弁護士時代にクライアントの法務部門に話すような感じで事業部門とコミュニケーションをとっていて失敗しているケースを比較的よく見かけます。
(2)外部 / 内部の違いがもたらす影響は何か
なので、ここをちょっと深掘りしてみます。「外部弁護士が法務部門に取るべきコミュニケーション」と比べたときに、「内部弁護士が事業部門に取るべきコミュニケーション」の特徴とはどのようなものでしょうか。
まだ全体を抽象化して俯瞰できているわけではないですが、上述した失敗ケースを念頭に置きながら、思考実験としてボトムアップで列挙してみると以下が思い付きます。
- 理由の説明はほどほどに
- 別に事業部門は規範(理由)を知りたいわけではない
- 結論を導出する上で規範は重要だけど、自分の思考過程を1から100まで開陳するような理由の説明は明らかに過剰
- 結論を端的に述べることと、コアになる or 議論を呼びそうな理由をしっかり説明することの方が価値がある
- あてはめの解像度を高く
- 事業部門は、目の前の”その”プロダクトについてリスクを取れるかどうかをぎりぎりで議論したがっている
- 案件やプロダクトに関する仕様の無理解・無関心は、信頼を簡単に損なう
- 本や判例のリサーチは重要だが、”その”プロダクトで”その”リスクを取れるかはどこにも書いていない
- 議論・議論・議論
- 双方向の議論が納得感を高める
- 結論は同じでも、「理由を説明し、その部分について議論を深めたか」で納得感や得られる信頼感に雲泥の差が出る
- 相談相手の前で、結論に至るまでの悩みを共有することは別に恥ずかしいことではない。
- 多様な解釈があり得ることを理解してもらうことが納得感を高めることも多い
- 「持ち帰り検討します」はせっかくのこの機会を毀損している
- 最後は主体性
- 相談相手は、あなたのことを「内側の人間」か「外側の人間」かをシビアに判定している
- 本当のリスクは「内側の人間」にしか適時に開示されない
- 相談相手が組織(e.g.プライバシー部門、法務部門)に相談しているか、個人(プライバシー部門、法務部門のXXさん)に相談しているかは、相談相手があなたに主体性を見出しているかの判断基準の一つにはなる
- 最後の最後で「XXさんがダメって言うなら諦めます」と言ってもらえるかは、日頃の信頼貯金
(3)これってインハウス固有の話なのか
1と2は、相手が法務部門であればある程度規範(理由)にも価値をおいていること
3と4は、法務部門が外部弁護士に相談する場合には一定のプロフェッショナル性や事務所のパワーを背景とした断言、客観性は求めている場面もあること
から、一応「外部 / 内部の違い」とは言えるかと思います。
まぁでもこれって程度問題であって、↑に書いたようなことは法務部門を相手にする外部の弁護士でも、優秀な方は「法務部門は、この相談の後には事業部門に対して説明をしなければいけない」という事実を理解し、必要な範囲で取り入れてますよね。
インハウス固有で求められるものではなく、インハウスというポジションが出てきた結果表面化しただけであって、多くの優秀な外部弁護士が身につけているものな気もします。
(4)再び結論
インハウス「固有」の価値は別にない
どうでしょうか、皆さんのご意見もぜひ聞かせてください。
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以上です、いよいよ秋って感じで涼しくなってきましたね。
2023年度分も無事に実績解除しました。 pic.twitter.com/0nUf6ymKP3
— 世古修平 (@seko_law) October 15, 2023