「分野別・争点別 ITビジネス判例・事例ガイド」を出版します

シティライツ法律事務所の伊藤 雅浩先生、倉﨑 伸一朗 先生と共に、「分野別・争点別 ITビジネス判例・事例ガイド」を出版します。

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システム(1章)、知財(2章)、ウェブサービス(3章)の構成で、各分野における判例や事例を(筆者の個人的な意見や視点をなるべく盛り込む形で)解説していく事例集になります。

今回の本は個人的にかなり思い入れのあるものなので、出版に際しての考えをブログにしておこうと思います。

1.経緯

この本自体の執筆経緯は、ぜひ伊藤先生による素敵な「はしがき」を購入後にご覧いただきたいのですが、私にとってのこの本の始まりは2023年の4月に伊藤先生からいただいたDMでした。

今までのキャリアでも尊敬する先輩からのお声がけで世界が一気に開けた経験が数多くあり、そういったお誘いについては条件にかかわらずYESと即答することにしています。

今回は伊藤先生から

  • ITビジネスに関する判例・事例本を書くこと
  • 章は3章構成で伊藤先生はシステム関連の章を担当されること
  • 個人情報関連の章を設けるので世古で担当して欲しいこと

をお伝えいただき、参加を即決しました。

 

2.構想

個人情報保護法に関する本はここ数年でだいぶ充実してきましたが、ケース本・事例本のようなものがあればいいのになとは思っていました。*1

とはいえ個人情報保護法は裁判になることが少なく、個人情報保護委員会(又は総務省や金融庁などの官公庁)とのやりとりが中心であり、内々に処理されてしまうことも多いです。

そこで、今回の本では純粋な裁判例からスコープを広げ、個人情報保護委員会による指導や企業のプレスリリース、新聞報道なども取り上げることにしました。

 

3.込めた思い

(1)「炎上」について

私は「炎上」は、会社と社会との間の”期待値”のずれから生じるものだと考えています。適法だが不適切なデータの取り扱いをしたときに、

  • しっかり炎上する企業(その企業に対する、社会の期待値が高い)とそうでもない企業(その企業に対する、社会の期待値が低い)があること
  • 一番最初に失敗した企業(その時点での、社会の期待値が高い)は大炎上するが、同じ失敗を二番目にした企業(その時点での、社会の期待値が低い)はそこまで炎上しないこともあること

などは、企業や時期によって寄せられる期待が異なるからだと考えています。「炎上」と上手く付き合っていきたいのであれば、期待値のコントロールが重要だと考えています。また、ここで見落としがちなのは、コントロールの対象には

・社会の期待値

だけでなく

・会社(=経営層、事業部門が自覚している社会)の期待値

も含まれるということです。社内教育と表現することもできますが、会社の中の人たちに目線を上げてもらう活動も継続的に行なっていく必要があります。

 

上手く伝わるでしょうか。

------<社会の期待値(結構高い。これくらいはやってくれていると思ってる)>------

 

               (妥協ライン)

 

------<会社の期待値(結構低い。これくらいは許容されるだろうと思ってる)>------

といった状況では、

  • 対外的な情報発信をすることで、社会に期待値を下げてもらう
  • 社内教育をすることで、会社に期待値を上げてもらう

ことで、双方の期待値を(妥協ライン)に近づけていく必要があるということです。

 

最近ではレピュテーションリスクの文脈で、社会の期待値については言及されることもありますが、会社の期待値はあまり言及されることが多くないように思います。ここは見落としてはいけない視点だと思っています。

 

(2)現状の何が問題か

事例から学ぶ環境が整っていないことです。

  • 判例が明示的に出るわけはない
  • 企業も情報発信に積極的でないことが多い
  • 社会も感情的に「炎上」を消費してしまいがちで、そこから学ぶ流れになりにくい

のだと思っています。

 

(3)この本で何がしたかったか

採用した事例の当事者企業を貶める意図は全くありません。実際に中の人として信頼回復に向けて尽力された・されている皆さんを尊敬しています。

私は「皆の共有財産として、過去の失敗や反省からしっかり学ぼう」ということを強く伝えたくてこの本を書きました。

 

(4)採用した事例

私が普段業務を行う上で、過去の事例としてよく思い浮かべ、期待値を想像するときに用いる事例たちを採用しました。

 

ただここで、自分にも一定の関わりがある企業・事例についての取り扱いは非常に悩みました。守秘義務との関係が難しいし、本音を言えばあまり触れたくないという気持ちも少しはあります。

他方で、この本の狙いを踏まえると、自分が関わった事例についてのみ特別扱いをするのはむしろ不誠実な態度ではないか?との思いもありました。それくらい日本で個人情報保護法に向き合う上ではコアな場所にいたという自覚もあり、そこでの悩みや苦しみを共有することで、多くの人に良い影響を与えられるかもしれないとも考えました。

そのため、記載する事実は公開情報からのものにしっかりと限定することを大前提に、加減や配慮をすることなく、自身が関わった案件についても掲載をすることにしました。

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以上です。

もう少しでお手元に届けられると思うのでご期待ください。まだの方はぜひぜひご予約いただけると嬉しいです。

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*1:現状刊行されているものだと令和2年改正 個人情報保護法の実務対応-Q&Aと事例-が一番近いと思います。