改正電気通信事業法をめぐる実務対応の最前線 第5回

改正電気通信事業法の外部送信規律について、

  • 勤務先で自ら / 同僚と対応
  • クライアント先で検討

した結果得た、学びや悩みについてまとめていっています。

 

第一陣(年明け早々に動き出した積極派のみなさん)が一旦調査票を配り終わってひとやま越え、第二陣(他社動向を見守っていた慎重派のみなさん)が本格始動し出したのが今の時期なのかなと思います。

今日はそのような状況を想像しながら、スコープ確定の段階において悩ましい「不特定の利用者」について書いていきます。

第1回:総論

第2回:EC・オンラインショッピング

第3回:スコープの外縁

第4回:社内研修

第5回:不特定の利用者(今回)

1.検討対象

(1)おさらい

外部送信規律の対象は、

  • 電気通信事業者

又は

  • 第三号事業を営む者(内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者に限る。)

でしたよね。

 

また、ここでいう(内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者に限る。)については以下のように定められていました。

  1. 他人の通信媒介する電気通信役務
  2. その記録媒体に情報を記録し、又はその送信装置に情報を入力する電気通信を利用者から受信し、これにより当該記録媒体に記録され、又は当該送信装置に入力された情報を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務
  3. 入力された検索情報(検索により求める情報をいう。以下この号において同じ。)に対応して、当該検索情報が記録された全てのウェブページ(通常の方法により閲覧ができるものに限る。次条において同じ。)のドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務
  4. 前号に掲げるもののほか、不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であつて、不特定の利用者による情報閲覧に供することを目的とするもの

 

そして、これらの4類系を「主に」という言葉で丸めてわかりやすく絵に表してくれたのが総務省のこちらの資料です。

出所:https://www.soumu.go.jp/main_content/000862755.pdf

 

わかりやすい資料を出していただけて嬉しい反面、これらは本当「主に」であって、

  • このページから落ちている(けれども解説案ではスコープであると明言されている)ものもあること*1
  • 「4.ホームページの運営」でどこまでが対象かこそが悩ましい論点なのに、「天気予報」「ニュース」「映像」の配信だけに限定されているような、なんだかすごく単純な話に見える(いや、それならそれで万々歳なのですが)

のが気になる所です。手元にジョーカーを隠しておいて「手札はこれだけです」と言われている感と言いますか。「先生うちって本当に対象なんですか?天気予報の配信とかだけに見えますけど」って言われるの、もうそろそろ辛いです。

 

(2)改めて検討対象について

今日は↑で述べた「4.ホームページの運営」について深掘りします。サマライズした表現から条文に戻ると、

前号に掲げるもののほか、不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であつて、不特定の利用者による情報閲覧に供することを目的とするもの

というやつですね。

 

ここを

不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であって

不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするもの

と2つに分解し、「不特定の利用者」というキーワードに着目しながら検討していきます。

 

2.わかっていること(①不特定の利用者の求めに応じて)

解説案には

なお、アカウント登録や利用料の支払いをすれば誰でも受信(閲覧)できる場合も、「不特定の利用者」に含まれる。他方、閉域網で提供される社内システムなどは、審査等により利用者が限定されており、「不特定の利用者」ではなく、「特定の利用者」となるため、該当しない。

との記載があります。

そのため、サービスの利用開始に際してアカウント登録が必要であったとしても、基本的には誰でも登録できるような場合には「不特定の利用者の求めに応じて」に該当すると考えることになります。

出所:パブコメ

 

3.わかっていないこと(②不特定の利用者による情報の閲覧)

以上はアカウント登録段階の話でした。続いてアカウント登録後の、利用場面に視点を移します。「アカウント登録をした利用者に対して、利用者に応じて情報を出し分けるケース」について考えてみましょう。

典型的な例で言うと、営業支援系のSaaSとか人事管理系のSaaSをイメージしていただくと良いでしょうか。ユーザーが登録した情報を保存し、管理しやすい形で表示するするようなサービスですね。

「アカウント登録をした利用者に対して、利用者に応じて情報を出し分けるケース」の場合、「不特定の利用者による情報の閲覧」を目的としていると言えるのでしょうか?

確かに事業者のサービス(SaaS)という単位では「不特定の利用者による情報の閲覧」に供されていますが、そのSaaSという箱の中で実際に閲覧に供される具体的な情報はユーザー毎に固有であり、具体的な情報は「不特定の利用者による情報の閲覧」には供されていないように見えます。

 

4.結論は?

個人的には、

  • ユーザー共通に送信される部分が、各種情報のオンライン提供サービスに該当せず
  • ユーザー個別に送信される部分が、ユーザーごとに厳密に管理されて出し分けられる

のであれば、それは「不特定の利用者による情報の閲覧」には該当しないと考えてもいいのではないかなと思っています。

 

理由ですが、

  • 法律及び解説案が「(特定の)利用者」「不特定の利用者」を使い分けていること
  • 「各種情報のオンライン提供サービス」という名称・語感
  • 「ニュースや気象情報等の配信を行うウェブサイトやア プリケーション、動画配信サービス、オンライン地図サービス等」という一定の傾向をもった具体例のみ示していること

からすると、閲覧に供するコンテンツはユーザー毎に同一であることを想定しているように思えるからです。同一であると想定しているように読めてしまう状況にあるから、と言ってもいいかもしれません。

 

5.本当?

一方で実際にはどうしているかというと、上記のようなサービスも安全側に倒して対象としていることが多いです。まぁ外部送信先の公表はやって悪いことではないですし、なんとなく総務省もこの先しばらくは、Q&A等でこの辺りの限界事例をギチギチ議論してくれそうにはありません。*2

尊敬する森先生のこちらの言葉が思い出されます。皆で頑張っていきましょう。

出所:https://www.soumu.go.jp/main_content/000843867.pdf

6.Special thanks

@Informationlaw1

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以上です。本日もお読みいただきありがとうございました。

*1:電子掲示板、動画共有サービス、オンラインショッピングモール、シェアリングサービス、マッチン グサービス、ライブストリーミングサービス、オンラインゲームなど

*2:Q&Aやパンフレットなど最近の情報発信を見ていると、こういう限界事例的なところを詳らかにするというよりは、より初歩的なところについて情報を拡充して間口を広げることに重点を置いていそうだと感じます。