ルールメイキングと事業戦略

1.記事作成の経緯

マイクロソフト社の顔認識テクノロジの見解公表を受け、組織内弁護士のある先生がルールメイキングにおける法務の役割に関して大変興味深い記事を作成されていました。

その中で述べられている「4つのスペクトラム」という内容が面白く、私が以前コンサルティングファームで関与していたプロジェクト群での経験をまさに要約するような内容だったので、記事を書く意欲を掻き立てられました。

上手くいったプロジェクト・いかなかったプロジェクトがあり懐かしい気持ちになったことから、当時を振り返る意味で今の考えをまとめてみたいと思います。

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2.前提

以下の内容は

  • 個人的な見解です。私の現在の所属組織や引用先の記事とも無関係です
  • 守秘義務の関係で、相当程度抽象的に記載or改変している部分があります

3.プロジェクトについて

コンサルティングファームにおける戦略領域のサービスとして、ルールメイキングを含めた事業戦略の立案に携わっていました。ここでは、当該サービスについて簡単に触れます。

(1)プロジェクトの目的(Why)

一定期間の中で、あるビジネスアイデアを新規事業として成立させることでした。

コンサルティングファームで戦略案件として受注している以上これは当然のことで、以下で言及する法律事務所やロビイング会社のサービスとは異なる部分だと思います。あくまで戦略案件として受け、その中でルールメイキングを検討しました。

(2)検討対象とするルール(What)

ハードローを対象とし法律の制定まで目指すこともありましたが、ソフトローが対象になることも多かったように思います。

これは当該コンサルティングサービスの原型が(ソフトローによる規制が盛んな)米国で形作られ、それを日本に輸入してアレンジしながらサービスとして売ってるからなのかな…と考えていました。

(3)検討方法(How)

書ける範囲で書くと、

  1. リサーチ(ルール・事業共通)
  2. 戦略立案(ルール・事業共通)
  3. 実行(ルール部分)
  4. 実行(事業部分)

といったイメージで検討が進みます。いずれの段階もオーバーラップすることが多いですが、1-2を半年弱、3-4は案件の重さによって…と言う感じです。とりわけ3の重さが案件によってかなり異なります。個別に詳述します。

1.リサーチ(ルール・事業共通)

引用記事における、

(A) 法務部門が法的調査を既に完了し、計算されたリスクで顔認識テクノロジを用いた事業を評価するための「法的評価の枠組み」を既に持っている

顔認識テクノロジに関する「法的リスク(法令、裁判例、その射程と評価、法執行)」という網羅的な法務的分析は既に終えたと考えるのが自然です。

との記載部分に対応します。

ルール部分に関するリサーチはまさにここに記載のあるような「法的リスク(法令、裁判例、その射程と評価、法執行)」の分析を行いました。

事業部分のリサーチとしては、通常の戦略案件で行うようなビジネスに関するリサーチ・分析をします。対象がルールであるとしてもリスク分析はコンサルでよくやる内容なので、ある程度応用が利きやすい部分だったかなと思います。

2.戦略立案(ルール・事業共通)

 引用記事における、

(B) ハードローのルールメイキングにおいて主導権を握ると「自社が実現可能なバー」を超えられない他社はグレーから黒になる

との記載部分に対応します。

事業戦略と合わせ、あるルールの存在がどのように当該事業に貢献できるか検討します。こここそが、まさにこのコンサルティングサービスの核であり、クライアントが当該サービスに対して何千万も払う理由です。

この部分については「事業部or経営企画の方にしっかりお伝えする必要があり、法務にはなかなか響きにくい」と言う感覚が経験上あったのですが、引用記事は必要十分なことを具体例とともにわかりやすく表現されていて、さすがだなと感じました。

一点付け加えさせていただくのであれば、「ハードローで主導権を握るのが理想ではあるが、ソフトローで他者を濃いグレーにして他社がソフトローと異なる見解を持つリスクを高めさせて動きを鈍らせる。その後ハードローが現状を追認してしっかり黒に」みたいなことも現実問題としては一定数あるのかなと思っています。

3.実行(ルール部分)

引用記事における

(C) 社会の接点から生じる「負」の声を予めコントロールする

という部分に対応します。

最終的には上記「2.戦略立案」で述べたような競争優位の下心があるとしても、ルールを作る以上は公平さ(少なくとも公平らしさ)が非常に重要だと思います。悪いロビイングなんかはアメリカを見ればイメージつきますよね。

プロジェクトとしては、「2.戦略立案」段階で検討していた社会のあるべき姿を訴求し、そのあるべき姿の実現のためにはこういったルールが必要だと主張することになります。なお、この部分についてはコンサル内に確立されたものはあまりなく、社内の霞ヶ関OBや元政治家、外部の協力会社の力に寄る部分も大きいです。

4.実行(事業部分)

ここはコンサルにおける実行支援一般の話なので割愛しますね。

4.当時感じた課題

 上述の通り、

  • プロジェクトのキモは、ルールメイキングにおいて主導権を握ることである
    (→「2.戦略立案」参照)
  • 主導権を握るためには、正しくあるべき姿を訴求する必要がある
    (→「3.実行(ルール部分)」参照)

と私は理解していて、そのためには

  • 【課題①】ビジネスとして不確定・不安定な時点から、意思決定層がオピニオンリーダーとして、当該事業とルールを支える理念にコミットしてくれること
  • 【課題②】行動規範に落ち得るくらいに、当該理念に嘘がないこと
    (「(D)従業員が「テレスクリーン」を新規事業と考えない」参照)

が必要だと感じていました。

とりわけ【課題①】はプロジェクトの提案・営業段階で、【課題②】はプロジェクトの実行段階で強く感じていて、提案・営業段階で「面白いし、ありうる未来の話だとは思うが…」といった態度を取られてしまうことはやはり多かったです。

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以上です。

もし今後似たようなプロジェクトを担当したり、会社の中からこのような取り組みに関与するチャンスがあれば、「4.当時感じた課題・失敗」を活かしつつ貢献できればいいなと思います。