前回に引き続き、改正電気通信事業法の外部送信規律について、「学び・悩み」について書いていきます。だんだんと「悩み」の割合も増えてくると思うので、ご議論・ご提案歓迎いたします。
第2回はEC・オンラインショッピング周りで書いてみます。
第1回:総論
第2回:EC・オンラインショッピング(今回)
第3回:スコープの外縁
1.自社商品等のオンライン通販
(1)Q&Aの記載
家電小売業業者における自社ウェブサイト上での商品販売については、例えウェブ専業だったとしても外部送信規律は適用されないと書かれています。
問1-12 :当社は家電小売業者です。実店舗における商品販売が主ですが、自社ウェブサイト上でも商品販売を行っています。当社の業務に、外部送信規律は適用されますか。(法第27条の12柱書)
答 :外部送信規律は、「電気通信事業者又は第三号事業を営む者」に適用されるため(法第27条の12柱書)、「電気通信事業」を営んでいない場合は、規律対象となりません。 小売業者がウェブサイトを開設して商品販売を行う場合は、本来業務である小売業の遂行の手段として電気通信を用いているに過ぎず、自己の需要のために電気通信サービスを提供しているため、「電気通信事業」に該当せず、外部送信規律も適用されません。
問1-13 :当社は家電小売業者です。実店舗における商品販売は行っておらず、専ら自社ウェブサイト上で商品販売を行っています。当社の業務に、外部送信規律は適用されますか。(法第27条の12柱書)
答 :実店舗における商品販売を行っていない場合であっても、本来業務である小売業の遂行の手段として電気通信を用いているに過ぎないことには変わりはないため、Q1-12のケースと同様、外部送信規律は適用されません。
(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/gaibusoushin_kiritsu.html)
(2)電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック の記載
他方で、ガイドブックにおける「企業等のHP(ホームページ)」には、以下の記載があります。
○オンラインニュースや映像配信など、自社の商品やサービス自体がインターネット経由で提供される場合に、その提供(販売等)のためにHPを開設するもの。
電気通信役務の提供(情報の送信) を前提としているため、電気通信事業となります(登録及び届出が不要な第3号事業))。
おっと。
自社の商品やサービス自体がインターネット経由で提供される場合には第3号事業(≒外部送信規律の適用対象)となっています。
(3) 問題意識
一方では自社商品等のオンライン通販はネット専業だったとしても外部送信規律は適用されないとしながら、他方では自社の商品やサービス自体がインターネット経由で提供される場合には外部送信規律が適用されると書いてあります。
これはどう整合的に理解すれば良いのでしょうか。
(4) 考え方
これは、前者が「家電小売業者」すなわち物を想定した記載であるのに対して、後者が「オンラインニュースや映像配信」すなわち情報を想定した記載である点に注目すべきなのだと思います。
前者の場合は電気通信役務を手段として、最終的に物を届けることを目的としているのに対して、後者の場合は電気通信役務を結果として、最終的にその電気通信役務に乗っかった情報を届けることを目的としていると理解します*1。
そう考えると
○オンラインニュースや映像配信など、自社の商品やサービス自体がインターネット経由で提供される場合に、その提供(販売等)のためにHPを開設するもの。
電気通信役務の提供(情報の送信) を前提としているため、電気通信事業となります(登録及び届出が不要な第3号事業))。
ここでいう商品ってどういうケースを想定しているんだろうなという気がしますね。
また、法律解釈を離れた日常的な感覚で言うと、上記の2パターンにどこまで差異を設ける合理性があるんだろう…というのは感じるところです。
2.自社サイトでの口コミ
(1)Q&Aの記載
自社ECに関連して、オンラインショッピングモールについても書かれています。
問1-14 :当社は家電小売業者ですが、家電小売業とともに、オンラインショッピングモールも運営しています。当社の業務に、外部送信規律は適用されますか。(法第27条の12柱書)
答 :オンラインショッピングモールのような、インターネット経由で複数の店舗でネットショッピングを行うことができる又は複数の出品者の商品等を購入できる「場」を提供するサービスは「電気通信事業」に該当し、さらに、「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」にも該当しますので(規則第22条の2の27第2号)、外部送信規律が適用されます。なお、ここでいう「複数の店舗」については、当該店舗がグループ企業等限定的なものであっても、同様です。
(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/gaibusoushin_kiritsu.html)
自社商品等のオンライン通販とは異なり、「場」の提供という側面に注目した上で、外部送信規律が適用されることが説明されています。
(2)電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック の記載
他方で、ガイドブックにおける「ECモール/ネットオークション/フリマアプリの運営」には、以下の記載があります。
○不特定多数が閲覧できるレビューや 口コミの機能を提供する場合。
上記同様、他人の通信を媒介していないため、登録及び届出が不要な電気通信事業です( 第3号事業)。
ふんふん、レビューや口コミは「情報をやりとりできる「場」」だからってことですね。、、、だとすると、自社商品等のオンライン通販においてレビューや口コミ機能をつけている場合どうなんだ?というのはすぐに思い浮かぶ疑問点ですよね。
(3)問題意識
言い換えれば、
- 「ECモール/ネットオークション/フリマアプリ」であること
と
- レビューや口コミ機能があること
はどちらが強い事情・優先される事情なのか?ということです。
「自社商品等のオンライン通販においてレビューや口コミ機能をつけている場合」については、前者の方が強い事情・優先される事情なのであれば原則どおり第3号事業非該当になり、後者の方が強い事情・優先される事情なのであれば例外的に第3号事業該ということになりますよね。
(4)考え方
ここは議論がありうる所だと思っていますし「事案による」と言いたくなる場面ですが、私は基本的には後者だと思っています。レビューや口コミ機能をつけている場合には第3号事業該当で外部送信規律の適用がありうるということですね。
理由を述べます。
ここで一貫して述べられているのが「情報をやりとりできる「場」を提供」という言葉です。これがあるから「複数の店舗でのネットショッピングや、フリーマーケット、オークション」は外部送信規律の適用があると言っている。そうだとすると、自社商品等のオンライン通販だったとしても「場」の提供があれば外部送信規律の適用があると考えるのが自然です。
また、この結論は「各種情報のオンライン提供」として
ニュース等に対して、 不特定多数の者が閲覧できるコメントの 投稿・閲覧機能を提供する場合。
が第3号事業にあたるとされていることとも整合的だと思います。ニュース等が対象のコメント投稿は規制対象だが、商品情報が対象のコメントは規制対象外と考える理由はなさそうです。
さらに言えば、レビューや口コミ機能が「複数の店舗でのネットショッピングや、フリーマーケット、オークション」に限定されて適用されるのであれば、わざわざここで2つ目の例を出してくる意味がありません。1つ目の例だけ出しておけば足りますよね。
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以上です。
他の論点についても書きたいことがたくさん溜まってきたので、業務に余裕があれば次の記事も書いていきます。
*1:自己の需要/他人の需要という説明の仕方もできると思います。が、界隈の人以外でこの説明がピンとくるケースってほとんどないよな…とも感じています