司法修習延期のすすめ

今日は自分の過去を振り返りながら、司法修習を延期することについて書いてみたいと思います。

今日の記事の主たる目的は、「司法試験合格者の方に、修習延期を選択肢として認識してもらうこと」にしてみます。時期的にもうちょっと早く書けば良かったな…。

1.司法修習制度について

テクノロジー寄りの方も読んでくださっているので、前提から説明しますね。

司法試験に合格した人はすぐに弁護士(or検察官or裁判官)になれるわけではなく、1年間の研修に参加する必要があります。これが司法修習です。私が非法律系の人に説明する時にはよく「研修医みたいなことを1年間かけてやるんです」と説明しています。寮生活もあるので、「なんだかアメリカの大学生活みたいでかっこいいな」などと私も昔思っていました。

2.私の経歴について

私は司法試験を2011年の9月に合格しているのですが、2011年の12月から始まる修習(65期)には参加せず、翌年2012年の12月から始まる修習(66期)に参加しています。つまり修習を1年延期したという訳です。

司法修習を延期できること自体同業者でも知らない人が多いので、修習同期にはよく驚かれました。なお「延期」といいながら、修習に行きたい年に手続きをするだけなので、延期をすること自体には何ら手続きはいりません。

3.延期の目的

これは将来の進路を見定めるためでした。

私は司法試験が終了した次の週から、一般民事・刑事を中心とする法律事務所でアルバイトを初めていました。可能なかぎり早く独立して自分の事務所を持ちたかったので、修習開始までの6ヶ月強を使ってスタートダッシュを決めてやろうという腹です。

しかしバイト開始から1ヶ月も経たないうちに以下の2点がどうしても気になってしまい、自分の将来設計に疑問を持つようになりました。

  • 借金や離婚、刑事事件で相談にくる方の思考プロセスに全く共感ができなかった
  • バイト先事務所の大きな収入源になっていた「過払い」「交通事故」は定型的な要素も多く、コンピュータに代替されるのではないかとの危機感を覚えた(当時はまだAIとか機械学習という言葉は市民権を得ていませんでした)

バイト先の先生がなかなか破天荒(修習後1年プー、脱サラ受験組、アジア横断経験)な方だったこともあり、そんな先生にあてられて「1年くらい自由にしてみるか」と修習延期を決めたのはとても自然な流れでした。

4.修習を延期して良かった点

(1)精神的に余裕ができた

最近はどうも様子が違うみたいですが、当時は就職活動は完全な買い手市場でした。

司法試験の順位だとかロースクールの成績だとかを非常に細かく見られたり、イソ弁の採用説明会で「見た目(顔)もそれは、悪いよりは良い方が当然いい」みたいなことを、どの口が言うみたいなボス弁がのたまったりする状況だったと記憶しています。また、組織内弁護士採用も企業側に手探り感があり、「新卒3年目と同水準で採用」みたいなところが結構ありました。

そんな中一度レールから外れてしまうことで時間的・精神的余裕ができ、安易な選択をせずに済んだのはとても良かったなと思います。

(2)法律を他の分野との関連で捉えられるようになった

修習延期中の1年間は、とにかく色々な人にアポをとり話を聞きに行きました。相手は弁護士や裁判官と合わせて、経営者を選びました。twitterで突然話しかけてくる職歴なしの無職(私)に対して、よく皆さん丁寧に相手をして下さったなと思います。

そこで強く感じたのは「法律は目的ではなく手段なんだ」と言うことです。当然ながら、組織は法律を守るために存在している訳ではありません。そんなこと当たり前じゃないかと思うかもしれませんが、同僚がみな法律家と言う環境の中では「そもそもこの目的って何だっけ」と立ち止まって深く考えるのはなかなかに難しい。

法律家は皆頭がいいので、「目的を踏まえて手段を考える」こと自体は得意です。目的A(例えば債務不履行の防止)を達成するために手段A(例えば契約書の条項)を検討するとか。でも基本的にある手段に対する目的は、より上位の目的に対する手段の関係にあるのです。

手段A→目的A

だと思っていたが

手段A→目的A=手段B→目的B=手段C→目的C

みたいなことは本当に多い。ここで、より上位の目的に気づく(目的Aは実は手段Bであり、その先にある目的Bに気づく)ためには発想の転換が必要で、法律以外の視点が助けになります。これが「組織は法律を守るために存在している訳ではありません」の意味です。

ここに気づいてから、私はファーストキャリアとして経営コンサルに行くことを決めました。


ちょっと長くなりそうなので一旦区切ります。

<2020/04/13追記> といってずっと放置していた本件ですが、法律系の転職メディアである「法務の転職」さんにインタビューをいただき記事が公開されました。 こちらも合わせてご覧いただければ嬉しいです。